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有吉佐和子「和宮様御留」 [本]


和宮様御留 (1978年)
NHKの「篤姫」もいよいよ佳境。14代将軍家茂の正室となる皇女和宮の登場ももうすぐでしょうね。そこで、一足お先に、皇女和宮降嫁のエピソード満載の有吉佐和子「和宮様御留」を読み返してみることにしました。

「和宮様御留」は、皇女和宮が徳川家に降嫁する話が持ち上がったあたりから、中山道を旅して江戸に到着するまでの物語なんですが、なかなかショッキングな内容なんです。「和宮は替え玉だった」というのが、小説の主題なんだもの。あとがきのような部分で触れられていますが、有吉さんは、例の「骨は語る」の増上寺の墓所発掘調査のニュースからこの物語を考えつかれたようです。

和宮は足が不自由で、そのために江戸への降嫁を非常に嫌がっていた。その気持ちをくんで、母と乳母が実家の下働きの少女を替え玉にした――フィクションなのですが、有吉さんのあの描写力ですから、まるで本当に起こったことのようになんの不自然さも感じさせることなく、読み応え充分の作品です。

さて、この物語、大半はこの替え玉の少女「フキ」を中心に語られます。なんら説明を受けることなく、拉致同然に屋敷の奥の座敷につれてこられ、和宮と日常を共にしながらその生活をみならっていくのです。

下働きの少女から見た、皇女和宮の日常生活。食べるもの、着るもの、入浴やトイレの作法。宮中の女官たちの、さまざまな駆け引きや、人間臭い金銭欲。それは、庶民のフキにはまったく馴染みのない生活なのですが、読んでいる私にとっても同じように馴染みのない、ものめずらしい生活、というわけで、このあたりもこの物語の興味深いところかもしれません。

例えば、宮様の生活ですが、決まった時間に起こされ、冬も夏も、同じようにたらいで行水をし、常に女官が身の回りの世話をし(トイレもね)、薄暗い奥の座敷に終日座り、手習いなどをしている。和宮にとっては、それが生まれてこの方繰返されて来た日常なのですが、日々掃除や水汲みに明け暮れていたフキにとっては苦痛でしかないのは当然です。すっかり筋肉が落ちて細くなってしまった腕をながめて、下働きをしていた頃の気楽さ、気持ちよさを思い出しているフキは、たいへんに哀れです。

縁談がすすんでくると、フキが和宮になりすまして他人の挨拶を受けなければならなくなるのですが、対面した相手の反応が、またフキにとっては恐怖の的となります。お茶の師匠は、「公家の姫君をたくさんみているが、こんなのは初めてだ。」といぶかしがっています。真夏でも、姫君たちは汗をかくということがないのに、ちょっとした立ち居振る舞いで和宮は大汗をかいている。それは、替え玉のフキだから当然なんですけれどね。ただ、身分をはばかって、そんなことはだれも口にださないのですけど、かえってフキは疑心暗鬼におちいってしまうのです。

そんなこんなで、中山道を江戸にくだる最中、フキは精神に異常をきたしてしまいます。大きな声で、祇園祭りの「コンコンチキチン、コンチキチン」というお囃子をうたい出してしまう。

一同真っ青です。これではせっかくの替え玉が役に立たない。さて、どうしよう。

和宮は無事江戸に到着し14代将軍とむつまじく過ごした、という史実があるのですから、どうにかしてしまうのですが、そのあたりは「和宮様御留」でどうぞ。(これも、人の感情を無視した残酷なはなしなんです。)

ところで、この本に描かれている幕末の京都の公家の生活は、想像以上に厳しいものがあります。厳しいというのは、経済的に厳しい、という意味です。有吉さんが、丹念にいろいろ調べられた結果がこれなのでしょうから、そのまま信用するとしますと、もう、みんなお金がなくて、ぴーぴーしている、という感じ。

もっとも、この本に登場する和宮の実家やおつきの女官の実家は、五摂家など大貴族とは違う、中流以下の貴族ばかり。そのせいなのかどうか、日常生活は、倹約、節約の連続。女官になれば、家計の助けになる。女官が天皇のお目にとまって皇子、皇女の母になれば、生活はうんと楽になる。または江戸の将軍の妻にでもなれば、一家は安泰・・・。そんな計算が常にちらついているんです。事実はそんな感じだったのでしょうねえ。

私は上にあげたハードカバーの本を買って愛読していましたが、このハードカバーの内側は、当時の京都御所周辺の地図になっていて、これがまた興味深いものでした。公家の屋敷は、御所の周辺にびっちりと集められて、「軒を連ねている」状態です。平安時代のような、一条から三条までの間に点在するのではないのです。これではほんのご近所という感じ。宮廷の権力争い、なんていっても、まるで井の中の蛙の喧嘩みたいです。

幕末の貴族に、平安貴族の面影を探すのは間違っているんですね、やっぱり。

というわけで、「和宮様御留」について思いつくまま語ってみました。面白い本です。おすすめ!





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グロリア

日本の時代物は苦手分野なのですが、Paletteさんのお勧めだし
有吉佐和子作品だし、読んでみたくなりました。

>みんなお金がなくて、ぴーぴーしている、という感じ。

ひゃー!いつの世もやっぱりお金がないと辛いですもんねぇ・・・

洋の東西を問わず、時代物を読んだり映画を観るたびに
「こんな時代に生まれなくてよかった・・・」と思いますが、
あと数十年経って、現代を舞台にした作品を読んだり観たりした未来の人たちも「昭和・平成の日本に生まれなくてよかった」ときっと思うんでしょうねぇ・・・

by グロリア (2008-07-02 22:29) 

親知らず

日本史ってこうして興味を持ったら面白いんですね。
学校で習う歴史って血塗られた戦争の年号を覚えるだけのようで興味が持てませんでした。歴史を教える先生の気持ちも分かりませんでしたが、今、少しずつ面白いと思えるようになりました。
by 親知らず (2008-07-03 08:03) 

palette

◎グロリアさん
貴族、という名前で想像する格式や体裁と、内輪の家計のイメージのギャップ、すごかったです〜!
私は、波瀾万丈の時代に「生まれてみたかった」と思うことが結構あるんですよー。でも、私は心身共にそんなに強くないので、あっけなく成人する前に病気で死んでしまったり、子供を6人産んで、最後の子供のお産の時に亡くなってしまう、なんてことになったと思います。やっぱり現代でしか生きられないみたい。

>こんな時代に生まれなくてよかった・・・

というのは、やっぱり本当ですね。

◎親知らずさん
私も、年号を覚える歴史は面白くありませんでした。やっぱり、その時代に生きて生活している人たちがちゃんと見えて来るようでないと、感情移入できませんものねー。
その点、こういうよく出来た小説や、博物館、よく出来たドラマ、なんかが手助けしてくれますね。学校の歴史の授業も、歴史が好きになれるような工夫をしていただけたらいいですね。
by palette (2008-07-03 14:17) 

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